日本リベラルアーツ協会代表の船岡です。

対話の仲間から話を聞いて以来ずっと気になっていた、ダイアローグミュージアムに足を運びました。体験したのは「ダイアログ・イン・サイレンス」というプログラムです。

入る前、私は対話を「価値観の等価交換」と定義していました。終わったあとのアンケートには「価値観の等価交換のために全力を尽くす行為」と書いていました。どんな体験がその変化をもたらしたのかを、内容を明かしすぎない範囲で書き残します。

音のない世界へ

入口で、声を出さないこと、音を立てないこと、携帯を持ち込まないことの説明を受けて部屋に入ります。インストラクターの方が一人。ネームプレートで自己紹介をし、名前を表すハンドサインを教わります。言葉ではなく、表情と記号と身振りで指示を受けたうえで、耳を覆うヘッドセットを装着しました。

途端に、空調のかすかな音さえない静寂が訪れます。普段は耳栓すらしないので、不思議な気分でした。

伝わらないことが、楽しい

最初は手を使って表現するアクティビティでした。その指示自体も手で受けます。はじめは何を求められているか分かるのですが、次第に難しくなっていく。二人で参加していたので、どちらかが分かることはあっても、それを相手に伝えるのがまた一苦労でした。

それでも回数を重ねると、課題の内容以外、たとえば「楽しいね」「分からない」といった意思表示が上手くなっていきます。普段オーバーリアクションはしないほうですが、意識してやってみると、これがとても楽しい時間でした。

続いて表情を使うワーク、ハンドサインから連想を広げるワークと進みます。最後は二人一組で、片方が見本の情報を伝え、もう片方が正しく並べるというもの。これが本当に難しい。向きなどの細かい情報をどう伝えるか分からず、しかも互いに正対しているため、自分の見え方をそのまま伝えると相手からは左右が逆になり、途中でこんがらがりました。相手の視点に立てるかどうかが、そのまま勝負になります。

言葉に甘えていなかったか

すべてのワークのあと、手話を教わる時間がありました。ありがとう、好き、難しい。どこか懐かしい感覚がありました。覚えたものは使いたくなるもので、インストラクターの方にたくさん「ありがとう」を伝えました。

次の部屋は対話の場です。手話ができるスタッフの方が加わり、言葉と手話の両方で話せる時間になりました。そう、インストラクターの方は耳が聞こえない方だったのです。

質問を二つしました。ひとつは、うまく対話するヒントについて。返ってきたのは、今回うまく意図を汲み取れなかったり伝えられなかったりしたのは、普段から言葉に頼りすぎている、甘えているからではないか、という問いかけでした。これは自分に強く当てはまると感じました。言語化できるという自負がある分、言葉に偏った人だけを潜在的な対象にしてしまっていたのではないか、と。

もうひとつは、送受信がうまくいかないときどうしているか、という質問です。お答えは、必ずしも100パーセント内容を合わせる必要があるだろうか、というものでした。よほど大切なことは紙に書くなどして正確を期すけれども、人間のコミュニケーションは必然的に齟齬を含む。言葉で伝えて伝わったと思っていても、実はまったく違うように届いていることはよくある。手段が言葉でなかったことで、その齟齬が可視化されただけではないか、と。深く納得しました。

対話とは、全力を尽くす行為である

学んだのは、言葉はそれほど重要ではないということです。英語ができないから外国の方と話せない、といった前提も、あまり障害にはなりません。同時に、コミュニケーションは本来難しいものだということも実感しました。楽しめたのは、難しさとゲーム性があったからです。何事もある程度の難易度があることは大切なのだと思います。

せっかく言葉を使えるのに、そこまで相手の想いを汲み取ろうとしたり、伝えようとしたりしているだろうか。よい装備があるのに、まだ挑んでいない状態なのかもしれません。

対話とは価値観の等価交換である。ただしそれは、かなり難しいことです。だからこそ、言葉だけでなくあらゆる手段を使って相手を知ろう、自分を伝えよう、あいだに流れる時間や環境とも触れ合おうと全力を尽くす行為なのだと考えるようになりました。正解がない分、終わりもありません。

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本稿は、2021年10月31日に公開した代表個人noteの記事をもとに、Webサイト向けに加筆・再構成したものです。

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